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国家の罠/佐藤慶

国家の罠/佐藤慶_d0037562_22273918.jpg政治色嫌いの方が、本書を手に取ることはあまりないと思う。しかし、佐藤優というヒーローが立ち向かう冒険活劇、すなわちエンターテイメントとしても読めるような工夫が本人によってなされている。

外務省の汚職事件が次々に発覚し、小泉総理政権発足と共に誕生した田中真紀子外務大臣に国民の期待が寄せられていた時、自民党橋本派の鈴木宗男衆議院議員が「悪しき古き体質」としてターゲットにされた。官側すなわち外務省としてのメインの人柱は、著者である佐藤慶であった。佐藤は北方領土問題の解決に向け使命を帯びたロシア担当のノンキャリアの外交官である。検察の逮捕は国民の世論を背景にした国策逮捕であった。常人なら強烈な取り調べに罪状を認めてしまうはずだが、佐藤は明晰なる頭脳とタフネスぶりを発揮して、検察の取り調べに対し論陣をはっていく。そして執行猶予付きとはいえ有罪判決となる。もちろん、佐藤は即控訴をした。


ゴルバチョフ政権崩壊、エリツィンの台頭を経由して、プーチンに至るまでのロシア事情や、北方領土問題解決・平和条約締結を目指す鈴木宗男をも巻き込んだ日露交渉舞台裏話もさることながら、クライマックスは逮捕後の佐藤と検察官西村との頭脳ゲームというべき取り調べである。冒頭で書いた通り、単純に面白いのである。ただ、著者の側に立てば、本書を書き表した理由は「何故国策逮捕がされたのか?」である。

著者はその理由を構造改革とする。P292からの数ページは小泉政権の論理の怖さを丁寧に解説してある。ちょっと要約は手に余るので避けるけど、小泉首相の”一言コメント”に騙される前に本書を読むのが肝要。
by musigny2001 | 2006-02-09 22:43 | 自伝・ノンフィクション


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